2.怪しい宗教とかじゃないだろうな?
無事に息子の入学式も終わって、授業が始まったらしい。私はいつもの通り会社に通っているが、ちょっと変わったことがあった。息子の帰宅が夜遅いのである。通学に時間がかかるのは知っているが、それにしても9時、10時くらいになる事もある。
週に2~3回そんな日があった。飲みにでも行っているのだろうかとも思ったが、それなら帰ってきたときにわかる。大学生としては特に変わったことではないのだろうが、変なところに顔を出しているようでは困るので、聞いてみた。
すると、例のサークルに行っているという。
「しかし大学で人生を考えるなんて、何やっているんだ。お前はそんなガラじゃなかったろう。どうせかわいい女の子が多いとか、そんな理由で続けてるんじゃないか?」
冗談半分で聞いてみるとその答えは意外だった。
「考えるって言っても、浄土真宗の親鸞の勉強をやっているんだよ。親鸞ってお父さんも知ってるでしょう?」
知らないわけがない。うちの宗旨は親鸞聖人、浄土真宗だ。
しかし何で大学でわざわざ親鸞哲学なんだ?
「お前、それ知ってて入ったのか?、そのサークルに。」
「説明会の時にそう言う話しがあったよ。親鸞の言葉が出てきて、これについて話しをするんだって。」
「しかし何で大学で親鸞なんだ。話しって、誰がするんだ。寺の坊さんでも呼ぶのか?」
「浄土真宗の講師を呼んだりすることもあるけど、大学の先輩が話しをすることも多いよ。今日は四年生の人だった。」
私は俄然心配になった。浄土真宗なら悪いことはないだろう。しかし本当にそうなのか?
今も昔も仏教系の新興宗教というのはある。有名なものではオウム真理教があるし、そんなものに息子がのめり込んでいるのではないか。
「怪しい宗教とかじゃないだろうな?」
「大丈夫だと先輩は言っていたよ。」
「当たり前だろう。うちは怪しい宗教ですって自分で言うところがあるか!」
「父兄参加大歓迎だって言ってた。心配ならお父さんも来てみたらどう?」
実際に参加している父兄はいるのかと聞いてみたら、よくいるという。ますます訳がわからなくなってきた。
本当は私も参加して確かめてみたいところだが、仕事の都合でどうしても5月以降にならないと日程が空きそうにない。妻に頼んでみたが、親鸞さんならそんなに心配することもないでしょうに、とのんきなことを言う。ずっと北関東の田舎育ちの妻は、人を疑うことを知らないのだ。
息子に、サークル活動があったときはどんな話しがあったのか、隠さず言うように厳命して、しばらく見守ることにした。