4.いずれお父さんにも話すよ、でもちょっと待って
ゴールデンウィークになり、息子は合宿にいった。約束通り毎日電話があった。合宿ではうまいものを沢山食べて、ぐっすり寝ているとのこと。遠距離通学で食事や睡眠の時間が不規則になっている息子にとっては、有り難い機会だったようだ。
また、講義ではとても大事なことを教えてもらっている、とのことだった。親鸞と仏教のことについて色々話を聞いてきたようだ。
「いずれお父さんにも話すよ。でも今は自分でもよくわかってないところがあるからちょっと待って。」
結局どんな話しがあったのかはまるでわからないが、洗脳されている訳ではないようだ。もっとも洗脳とはどういうものかもわからないのだが。
実は息子が合宿にいっている間に、あまりに心配で会社の友人にそのことを相談したのだが、友人の答えは、
「絶対にそんなところに行かせるもんじゃない。大体カルト宗教というのは最初は正体を明かさないんだ。あとから豹変する事はいくらでもある。親に電話したときはこう言えと指導しているのかも知れない。」
というものだった。その通りだろう。
実はこの友人、娘さんが「エホバの証人(ものみの塔・良く奥さんが子連れで小冊子を持って勧誘している)」に入信し、脱会までに大変な苦労を経験している。
エホバの研修に行ったときからおかしくなり始め、学校の事務局、弁護士、近くの教会の神父、娘の友達を総動員して、脱会にこぎ着けたそうだ。一年くらいはほとんど引きこもりに近い生活だったという。
そしてエホバも、やはり最初は楽しそうな「聖書を研究するサークル」で、特に違和感も何も感じなかったという。
この話を聞いたときは相当心配し、合宿場所までその友人を連れて行こうかとも思ったが、ちょうどその時息子から電話が入り、その明るい声と辺りから聞こえる談笑があまりに楽しそうだったので、行く気もなくなってしまった。
そして、息子が合宿から帰ってきてから、変わったことがある。
朝家内が起こしに行かなくても、自分で起きてくるようになった。あいさつをするようになった。食事のあと自分で皿を洗うようになった。部屋の掃除をはじめた。帰りが遅くなるときは連絡が入るようになった・・・など。
なにが合宿であったのだろう。
息子に聞いてみると、待ってましたとばかりに、仏教の教えを実践しているのだ、と言う。
母はそれを聞いて喜んでいたが、私は複雑な気持ちであった。
両親の目を欺くために、教え込まれているだけではないのか。
何より、今まで自分が口を酸っぱくするほど行っても聞かなかったことを、たかが大学生のサークル合宿ごときに参加しただけでやるようになった。その何とも言えない悔しさもあって、私は素直に喜べなかった。
このままこんな感じで終わればいいのだけれども、そういうわけには行かないだろう。
かといって別に今何か問題があるわけでもないし。結局やはり、しばらく見ていることになる。